原型師 山口範友樹×アーティスト花井祐介
特別対談
アートだけど、アートに閉じない。
「好き」に奔走できる、同い年ふたり
数々の名作フィギュアを生み出し、海外のアート展でも作品が評価されるKLAMP STUDIO原型師・山口範友樹と、グローバルブランドからもラブコールが絶えないアーティスト・花井祐介の対談を全4回で配信。Netflix『Stranger Things』の登場人物をモデルにした注目のフィギュア<COFFEE AND CONTEMPLATION> 制作の舞台裏エピソードを交え、それぞれの視点からものづくりやアートについて聞かせてくれた。
山口範友樹(Yamaguchi Noriyuki)
原型師。1978年、東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部デザイン学科ヴィジュアルコミュニケーションデザインコース卒業。在学中に原型師・澤田圭介氏に出会い、弟子入り。造型・原型制作、造型に対する考えを学び、現在は玩具メーカー内の造型室「KLAMP STUDIO(クランプスタジオ)」を主宰。フィギュアの造形バトル「造形王頂上決戦」連覇の実績を持つほか、海外のアート展にも作品を出展。国内外問わず活躍の場を広げている。
花井 祐介(Hanai Yusuke)
アーティスト・イラストレーター。50〜60年代アメリカのカウンターカルチャーに大きく影響を受けた独自のスタイルを形成し、アメリカやフランス、オーストラリアなどで作品を発表。VANSやBEAMSをはじめとするグローバルブランドへのアートワーク提供のほか、ローカルに根ざしたショップとのコラボレーションも行う。
vol.4 〜面白そうな未来を見せる〜
「イタズラ描きを楽しんでいた人たち」
山口:俺、花井くんに聞いてみたかったことがあるの。花井くんはやっぱりアーティストっていう意識なの?どの目線でやってこうなれてんの?って(笑)
花井:いや、アーティストじゃないよ。だからね、芸術家っていわれた時はもう、勘弁してくれって…。でも、イラストレーターっていわれても違うしね。だからもう、分かんない!自分では。絵描いて生活しています、ってだけ。
山口:俺、そういうスタンスにすごく惹かれるんだよね。しかも、「俺が好きな靴に絵描いてんじゃん!」とか、「おいちょっと待ってよ、ペンドルトンかよ!」「え?えっ?何?」ってなる(笑)
花井:ふふふふふ。
山口:だからアーティストとかアートとかじゃなく、自分の好きなものの延長に花井作品があるような気がしていて、そこが好きなの。素直で素朴なところから生まれるものだからこそ親近感を感じれる。だって世間で言われる「アート」ってものになると、キュレーターが作品を収集して、画廊に並べて、コレクターが高いお金を出して買う。みたいなどこか「これがアートだぞ!芸術だぞ!」って一部の人たちだけに存在する高尚な文化だって線を引かれている印象があるんだよね。「これが分からない君たちが悪い」みたいな。いやいや本当にそうなのか?とか。
花井:確かに、あるね。でも今この10年くらいの間に現代アートの中心になった人たちは、ある意味そういう「閉ざされた高尚な文化圏」の外側にいた人たち。例えばKAWS(カウズ)だとか、キースへリング、バスキアなんかもそう。あの人たちは美大を出ていても、芸術というよりもグラフィティーライター寄りの人たちだった。
山口:そうね。いたずら描きしていた人たちの絵が、現代アートになっているんだよね。
花井:現代美術ど真ん中じゃないところで描き続けている人たちに、僕はやっぱり惹かれる。でもそういう人たちが今現代アートになっている。けれど、現代アートになったから、だからなんだ?と。その人たちは好きだけど、それだけ。例えば先日アートフェアに行っても、僕はちょっとしか分からなかった(笑)。しっかり美大で勉強している人からしたら、あの人のあれはすごいとか、何々先生の何々が〜っていうコミュニケーションがあるんだろうけれど、僕は大半分からない。
山口:いや、大半の人が分からないと思うんだ。けれど「分かる」という人たちは「いやぁ、いい」っていうわけじゃん。俺はあれはコントなのかな?と思ってる。
花井:たぶん、文脈が好きな人もいるんじゃないかな。まあ僕が見ているのも文脈だと思うしね。「このカルチャーから出たこれだから」っていう。そういうのと一緒なんじゃないかな。
山口:なるほどね。
花井:僕ら世代というのは「Made in USA」に惹かれたような世代だよね。「Made in USA」=カッコいい!みたいな。雑誌しかなかったから、情報量が少なかった。それに比べたら今の子たちって、インターネットを使って世界中のものを見られるから羨ましい。「これがいいんだよ」って誰かに決め付けられることもないでしょう?
山口:俺は花井くんが羨ましいよ。やりたくないことは極力やらないで、絵を描いて生活できているなんて。そりゃそこまで辿り着くのにはもちろん努力とか、苦労とか、見せ方とかいろいろあっただろうけど。でもペンドルトンをはじめ、自分が影響を受けたほとんどのブランドに仕事で関わっているという時点で、もうそれでいいじゃん! って思う。
「ものづくりの面白さ」
山口:ものづくりってさ、単純に反応があると嬉しいよね。
花井:「いいね」って言ってくれたら嬉しいよね。
山口:自分の作ったものを、誰かが喜んでくれていると思えれば頑張れる。まったく反応がなかったら、やってられないかもしれないな。
花井:反応があるから仕事になってるんだよね。でも、だからといって媚びていても面白くないよね。例えば、今「こういう絵を描こうとしてる」というアイデアがあっても、それをそのまま出したくはない。「花井の絵ってこうだよね」って思われたくないみたいなところがあって。だから、新しい展示をするときは「あれ?」ってなるような、半分半分くらいのところを狙ったりする。自分が飽きちゃうんだよね、ずっと同じ感じで描いていると。自分が面白がれることで、人が面白がってくれるというのが大事だよね。
山口:それは俺にもある。俺の場合は同じキャラクターを繰り返し作ったりもするけれど、前回作ったものより良くならないものはやりたくないの。だから、1つずつ常に何か自分に課題を出す。ここをこうしよう、ここをこだわろう、作業スピードを早くしよう。何か1つ課題を設定すると、それを達成するのが楽しくなる。
花井:常に改善点を探り続けちゃうよね。例えば1週間前に描いたものでも「もう少しこうすればよかった」とか考えてしまう。もちろん描き終わったときは満足して「よし!」と思うんだけどね。だから過去の作品は実はあまり好きじゃなかったりする(笑)。
山口:俺も一番最近に出したものが一番の自信作と思ってる。昔の方が良かったとは思わないし、昔の方が良かったと思うんだったらそれをやればいいからね。
花井:僕も「次はああしようかな」って常に思ってる。それが続けていける理由だよね。変化を求めたり、それが楽しかったりするのは。
「「ああなりたい」と思われる人」
山口:花井くんはこの先、あれやってみたいとかある?
花井:よく聞かれるんだけどね、これといってないんです(笑)。僕は、現状維持かなぁ。描いている絵に対して、自分の中で「もうちょっとこうできたらいいな」というのはあるけれど、このまま少しでも長く絵を描いて、生活していければラッキーだなと思ってるよ。
山口:なるほど、そうくるのね。
花井:僕の絵は黒板や教科書の隅に描いて、クスクス笑っていたアレと変わらないんだと思うの。悪ふざけしている感じになっちゃってたから昔は嫌がられてたんだけど、最近それが喜ばれるようになった。
山口:そのイタズラっぽさが面白いんだよな。絵だけ見ると、ハートフルでポップな印象も受けがちだけど。
花井:愛です、愛。好きって思えないと「描いて」と言われてもうまく描けない。ホッパーに関しても、暗い過去がある中でどう人生をやっていくか、みたいなこの人のキャラクター設定がすごく好きだった。だからこそ、これを描いたんだよ。つまり、愛があったわけだ。
山口:まあそうだよね。好きなんだろうね、きっと。
花井:ちょっとクセがある人とか、好きなのよ。変なところがあった方が人は面白いから。逆に山口くんはこれからどうしたいとか、あるの?
山口:『KLAMP STUDIO』は商業でやっているから、受けの仕事、裏方の仕事が中心だった。けど、提案して商品を作るとか、提案してフィギュアを作るとか、こちらから発信するような仕事にも興味が沸いてきて。ちょうど花井くんとやったような仕事をもっとやりたいなって思う。
花井:うんうん。
山口:あとは教育。年齢もあるんだろうけど、俺らのやっていることを次の世代がどう引き継いでくれるんだろうとか。俺らのやってきたことを利用して次の世代がもっとすごいことしてくれないかな、とか考えるようになったな。原型師の地位が今より上がって、業界全体がいい方向に進んだらいいなって。簡単に言うと“作れれば誰でもいい”という下請け扱いになりがちな現状を変えたいと思っている。
花井:ここで作られたから評価されて売れている、という土壌ができたらいいよね。もうちょっと原型師の顔が出てきたら、「あの人に作ってもらいたい」って作者からアプローチがくるようになるかも。「この漫画の原型を作っているのは、このスタジオのこの人だから」みたいな理由で仕事が回るようになったらいいよね。
山口:まだまだいろいろなことが必要なのかなと思う。とにかく、若い子たちから憧れられる職業でないと。「ああなりたい」と思われないようでは、その業界はどうにもならないと思うからさ。そうやって、若い子たちに面白そうな未来を見せるのが、歳をとった人間の責任でもある気がしてるんだよね。
花井:いつか自分のフィギュアが出るんだったら、この人がいいと言われる人。山口くんはそうなれると思う。
山口:そうなっていかないとね。単純に絵一枚あったとしても、原型師が違えば違うものになる。「こっちの方がいいね」と言われたいなら、努力をしないと。言われたことの100%はアウトプットできる。けど120%にするためには、自分なりの要素が必要になる。あとは花井くんが「自分の絵でフィギュアを作るなら、山口だ」って言い続けてくれたら、俺は安泰だね。(笑)
完
第1回卒業生の職場訪問企画では、原型師 山口範友樹さんと、アーティスト花井祐介さんにお会いしました。次回、第2回卒業生の職場訪問企画もお楽しみに。
vol.4 〜面白そうな未来を見せる〜