美大生時代のような、「楽しい」の感覚を追求する今。
三浦海岸にシェアスペースを拓いた、建築士・新城宏明の胸の内。
<後編>

コロナ禍に神奈川県三浦海岸に移住し、シェアスペース「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」を開業した一級建築士・新城宏明。三浦海岸を拠点に、「エリアリノベーション」に走り出した新城が、建築業界を目指したきっかけや美大で得たもの、これからのものづくりについて聞かせてくれた。


新城 宏明(Hiroaki Arashiro)

一級建築士、建築デザイナー。ボリビア生まれ、横浜育ち。多摩美術大学造形表現学部デザイン学科スペースコミュニケーションコース卒業。建築の専門学校を卒業し、造作大工として活動した後、3年次編入で多摩美に入学。空間デザインを専攻し、デザインに対する美意識を高める。現在は神奈川県三浦海岸でシェアスペース「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」を主宰。自然豊かな環境を拠点とし、クリエイティブの力で街の活性化を企む。


<前編>はこちら


「みんなでつくる」が、おもしろくて。
建築+αの実践へ

美大で学びながら建築士を志していた時代から、漠然と「独立」の目標を掲げていました。その理由の一つに、いろんな能力を持った仲間たちとものづくりをしたいという思いがありました。

とはいえ、自分自身が急に何かができるわけではありませんから、最初は住宅設計事務所や店舗設計施工事務所に勤めました。その後、縁があって多摩美のデザイン学科へ副手として戻り、デザイン学科教授(現在環境デザイン学科教授)の堀内正弘先生の元でシェアスペースやコミュニティーの作り方を学ぶ機会をいただき、場づくりに興味を持つようになりました。

一級建築士の資格を取得し、個人で本格的に活動を始めると、僕自身コワーキングスペースで作業することが増えていき「海沿いでテレワークをしたい」と思うようになりました。それで場所を探したのですが、意外と無く。コロナウイルスによる行動制限が転機となり、テレワークが世の中にも浸透し始めたのを感じると、海沿いのシェアスペースを作ろうと決意しました。

そうしてオープンしたのが「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」。物件探しに始まり、設計も自分で行なっています。その為、自分が欲しかった空間になっていますね。看板やロゴデザインは多摩美時代の友人に手伝ってもらいました。


誰かのルーティーンの中に存在する場所

「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」はシェアオフィスとカフェ、夜はバー営業をする複合施設。都心のワークライフスタイルを三浦海岸に持ち込んだというか、仕事を終えてアフターファイブ的な感じでお気に入りの店で一杯飲んで、常連さんとの会話を楽しむというようなライフスタイルをここでもできるようにしたいと思いました。昼はオニバスコーヒーの豆で入れたカフェラテを飲みながら仕事をして、頭が疲れてきたら海岸を散歩して、夕方にはデッキでビールを飲みながら夕焼けを見て、その日の仕事を終える。その後はバーでお酒を飲みながらコミュニティーの輪を広げる…。こんな風に一日過ごしてもらえたら嬉しいですね。

オープンして2年。さまざまな業種の方が利用してくださるようになりました。その人たちが繋がって、仕事が生まれることもあるようです。

私は建築士として空間の概念を学ぶと同時に、コミュニティーづくりの考え方を多摩美時代に学びました。それは今、シェアオフィサーとしての場のつくり方という点でとても活きていると感じますね。

先生がよく、「街に美味しいカフェラテを出すお店があると、その街は良くなる」と仰っていたことを思い出しましたが、そういえば、いつのまにかうちもやっています。

外国人の常連の方などは、毎朝必ずカフェラテを飲みにきてくれて、ちょっと喋って仕事にいく。そういうのはいいですよね。彼のルーティーンの中にうちがあることも嬉しいですし、彼の中に毎朝カフェラテを一杯飲むというリズムがあることも素晴らしいと思います。


美大卒の建築士

多摩美に通い、何より良かったのは視野が広がったこと。あとは、デザインをやっている仲間たちにたくさん会えたことですね。その仲間たちというのが、みんな本当に自分の好きなことをしている。私もそこに入って、個人的な理想を追求し続けられたらいいなと思うようになりました。

自分がシェアスペースをつくりたいと思った背景にも、多摩美の学生時代が楽しかったことが大きく影響していると思います。みんなで集まりながら、できる分野で手を動かして何かをつくるような、学園祭のようなことをずっとやっていたい。それが今に繋がっていると思います。

三浦海岸に移住して、シェアスペースをつくって思うことは、三浦海岸って面白い街だということ。活性化を掲げたらいろんな人が関わってくれると考えています。そうすると、それぞれがワイワイとできる分野で力を出し合って、それこそ学園祭みたいなことができるかもしれないですよね。「エリアリノベーション」という観点からも、いろんな店舗やイベントがあることは理想。そういうことを徐々に進めていくことが今の私の目標。「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」がその拠点になってほしいと考えています。

近年はUターンやIターンが増え、地元や地方に移り住む人も増えています。そんな風に自分で価値を見出せる場所を見つけて、地域活性化に取り組むのも面白いですよね。最初はひとりかもしれませんが、仲間を見つけて、ITやDXの力を借りて、少しずつコミュニティーの輪を広げていけばいい。そこにアートやデザインを絡めて、地方から世の中の美意識を高めることができたら、それは多摩美で学んだ人間だからこそ出来る事だと思います。


vol.1 〜「建築士として空間のポテンシャルを見出し、より高める 多摩美OB主宰の「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」を訪問!

vol.2~「美大生時代のような、「楽しい」の感覚を追求する今。三浦海岸にシェアスペースを拓いた、建築士・新城宏明の胸の内。<前編>」~

vol.3~「美大生時代のような、「楽しい」の感覚を追求する今。三浦海岸にシェアスペースを拓いた、建築士・新城宏明の胸の内。<後編>」~

多摩美校友会×BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN 新城宏明さん クリエイター座談会 前編