クリエイターには地方を盛り上げる力がある!

建築士・新城宏明×画家・上田季沙×美術造形作家・前田耕

都心を離れ、神奈川県・三浦半島を拠点に活動する多摩美OB3人。建築士でありシェアオフィサーとして「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」を主宰する新城宏明と、そのカフェスペースに勤務する画家・上田季沙。そして三崎に工房を構え、リノベーション事業にも注力している美術造形作家の前田耕。年齢も専門分野も違うけれど、自然につながったという3人で座談会を実施。地方を拠点に活動する面白さを聞かせてくれた。


新城 宏明(Hiroaki Arashiro)

一級建築士、建築デザイナー。ボリビア生まれ、横浜育ち。多摩美術大学造形表現学部デザイン学科スペースコミュニケーションコース卒業。建築の専門学校を卒業し、造作大工として活動した後、3年次編入で多摩美に入学。空間デザインを専攻し、デザインに対する美意識を高める。現在は神奈川県三浦海岸でシェアスペース「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」を主宰。自然豊かな環境を拠点とし、クリエイティブの力で街の活性化を企む。

上田 季沙(Kisa Ueda)

神奈川県生まれ、画家。ストリートダンスに没頭していた経緯をもとに、多摩美術大学美術学部版画専攻に在学時より、身近な存在だった音楽にインスピレーションを得た制作「楽雲 -gakumo-」をスタート。主に鉛筆と色鉛筆を使い、音楽には欠かせないリズムや流れを「雲」として落とし込むことに加え、音楽特有の流れのまま「景色」や「生物」なども描きこむ。細密且つ幻想的な唯一無二の作品を生み出している。2024年4月に神奈川県鎌倉市での個展開催が決定。

受賞歴 / 2020「LUXEMBOURG ART PRIZE」芸術功労証書受賞

前田 耕(Koh Maeda)

長崎県生まれ、造形美術作家。多摩美術大学グラフィツクデザイン学科を卒業後、アーティストとして活動し、個展や国際交流展等で数々の作品を発表している。幼いころの”龍踊り”のイメージを根底に、龍を題材とした作品を多く生み出す。大型の作品を手がけることを背景に、神奈川県三崎にアトリエを構える。空き家・空き店舗のリノベーションビジネスを主宰。



どこにいても惹き合う個性。

「必然的な、地方移住」

新城:こうして、腰を据えて3人で話すのは初めてですね。

前田:そうね。新城くんと僕は何度か飲んで話しているけど。

上田:私はここのカフェでアルバイトをしながら絵を描いている人間です。もともと生まれが横須賀なので、Uターンに近い感じです。

前田:僕は三崎にアトリエがあるんだけど、たまたま知り合いのアーティストが使っていた場所が空いて、使い手を探しているというので貰い受けたという流れ。空間が広いところを探していたので丁度良かったのと、出身が長崎だったので、空気が似ていると感じて割と即答で決めた感じだったかな。

新城 僕が三浦半島に来た理由は、コワーキングスペースを海沿いに作りたいと思ったことがきっかけ。クリエイターが集まれるような場所を作りたいと思っていて、探し始めたらたまたま三浦海岸にいい場所があったので。

前田:それで、友人に新城君を紹介されたんだったね。僕は作品制作以外にリノベーション関係の仕事もしているんだけど、「三浦に設計できる人がいますよ」と友人に教えてもらって。

新城:お会いできて良かったです。前田さんが三崎にシェア工房のようなものを作りたいと仰っていたのを聞いて、僕も携わらせていただきたいと思いました。

上田:シェア工房、ですか?

前田:そうそう。そのリノベーション関連の仕事の方で、会社を設立しているんだけど、その会社で結構大型の加工機を導入したんですよ。その加工機を使えば大型のパネル装なんかもできる。仕事で使っているだけではもったいないから、近くにクリエイターがいるなら、みんなで使えるようにしちゃおうかなーみたいな気軽な感じのやつ。

新城:前田さん個人の仕事がベースにありつつ、誰でも気軽に使わせてもらえるというのはとても有難いですよね。

上田:へえー!私の場合、絵を描くことは“自分との勝負”というか、個人行動的な側面が大きいと思っているのですが、そうやって誰かと繋がりながら活動するというのには興味があります。

前田さんは三崎に来られてどのくらい経つのですか?

前田:10年ちょっとですね。僕の場合は個人の製作にしろ何にしろ、空間がどうしても必要だった。都心でそれを構えるとなると費用面でも随分かかるし、そもそもなかなか物件として十分な場所がない。三崎には十分な空間がありつつ、それでいて都心にも出やすい利便性もある。空気もいいし、人も面白い。最近、移住者が本当に増えたと思うよ。

新城:僕も、移住者ですしね。僕の場合は昔から海辺で生活をするというのがちょっとした憧れで(笑)。三浦に来て2年で、今はまだ自分の仕事が大半という状況ですが、こういう場所でデザインとかクリエイターの人とコラボしながら何かできたら楽しいだろうな、とずっと思っています。

前田:移住する人って、それなりにいい意味で変わった人が多い気がするんだよね。それで結局ね、移住者同士で「こっちに来て何年?」みたいな会話になる。ほら、今みたいに(笑)。


「“なんか面白くなる”の予感」

前田:だいたい町をうろうろしているのって、移住者ばっかりじゃない?

新城:確かに、飲み歩きしていますよね。特に、三崎の人たち。

前田:そうそう、三崎は飲み屋も多いから(笑)

新城:僕が「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」でお酒を飲めるようにしたというのも、いろんな人にふらっと来てもらいたいという意図がありました。そういうコミュニティーの場になれたらいいな、と思いながら運営しています。三崎と比較すると、移住者は三浦海岸エリアにはまだ少ないのですが、これから増えていくんじゃないかな、と思っています。

前田:そうね。今って、だいぶ考え方が変わってきていて、古い建物だし小さいかもしれないけれど、ちょっとリノベして自然豊かなこっちに住もうかな…という価値観を持つ人がやっぱり増えている。それもあって、僕はリノベを仕事にしちゃおうと思ったんですよ。

新城:耕さんのリノベはちょっと普通のリノベじゃない(笑)。まず、耕さんのアトリエが凄い。美大生の憧れが全部詰まったみたいな場所だなと思いました。

前田さんのアトリエ写真
前田さんのアトリエ写真

前田:ふふ、ありがとう。うちのアトリエはボロボロなんだけど、なんかちょっとした観光地化しているんだよね(笑)

最近は、ちょっと遊びがある感じのリノベをほしがっている人たちが多いんですよ。趣味色が凄い強い感じの。かといって一から作るというより、既存する建物のポテンシャルを活かしてお金かけずにセンス良くやりたいなという子が増えた。そこで僕のような人間の出番があったわけです。

上田:私、今住んでいる家を将来的にカフェ兼ギャラリーにしようと思っていて。そのために今ここでアルバイトをしてお金をためているんです。だから、前田さんの仰るニーズがすごく分かるなぁと思いました。

前田:いつでもお待ちしています。お金をかけずにやりますから(笑)

新城:こういうのがいいんですよね。自分の理想を追っているクリエイターが自然に繋がっていくような。僕は、「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」をそういうコミュニティーの場としたい。ここを拠点に、三浦海岸をエリアリノベーションしていくという楽しみがあります。

前田: そう。だから“なんかやってる人たち”が自然な流れで一緒に色々やって、“なんか面白くなる”とか。それが地方のすごくいいところなんじゃないかなと思うよね。

新城:僕はコロナの年に三浦に移住してきましたが、翌年にはコロナも収まるだろうと思っていました。けれど全然収束せず、「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」は大変な状況が続いた。でも2023年に入り、やっと人の動きも活発になってきた様子をみていると、これからが楽しみだなと思っています。


vol.1 〜「建築士として空間のポテンシャルを見出し、より高める 多摩美OB主宰の「BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN」を訪問!

vol.2~「美大生時代のような、「楽しい」の感覚を追求する今。三浦海岸にシェアスペースを拓いた、建築士・新城宏明の胸の内。<前編>」~

vol.3~「美大生時代のような、「楽しい」の感覚を追求する今。三浦海岸にシェアスペースを拓いた、建築士・新城宏明の胸の内。<後編>」~

多摩美校友会×BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN 新城宏明さん クリエイター座談会 前編

多摩美校友会×BAYSIDE SHARE MIURAKAIGAN 新城宏明さん クリエイター座談会 後編